(構成・文=横山 晴美/ファイナンシャルプランナー)
マイホームを購入しようと思った場合に、価格について迷う人は少なくありません。
しかし立地や物件の広さ、グレードによって価格帯が異なるため、ある程度購入価格帯を絞らないと、物件探しが進みません。
とはいっても、多くの人が「私たちはいくらのマイホームが買えるのだろう」という素朴な疑問を抱えながら物件探しを始めるようです。
物件価格の目安を知るためには、住宅ローンの借入可能額を知ることが重要です。借入可能額から適切な物件価格を見通す場合の考え方と注意点を紹介します。
物件価格の目安は「借入可能額+頭金」
物件価格は資金源から逆算できます。通常、住宅購入では住宅ローンを組みますので、資金源は「住宅ローン借入額」と「頭金」の2つです。
つまり「住宅ローン借入額 + 頭金」が物件価格となります。
「借入可能額」がいくらなのかは最終的には金融機関の審査によって決定します。
そのため事前に借入額の額を見通す場合は、現状でいくら住宅ローンを返済していけるかを起点としてシミュレーションする方法をおすすめします。
「想定する返済期間」「毎月(もしくは毎年)返済できる額」「借入れ金利」などの条件を入力して借入可能額を算出できるシミュレーションは、各金融機関の公式サイトに掲載されています。
借入可能額はさまざまなパターンでシミュレーションしてみよう
「夫だけの収入で返済するとしたら?」「返済額が今の家賃と同程度だとどうなる?」など、複数のパターンで事前にシミュレーションしてみるといいでしょう。
なお、金利は市場金利よりも高めを設定するのが望ましいです。
実際の審査においても、金利上昇リスクを含めるため高めの金利を適用したうえで審査が行われるからです。
いくつかの条件で、算出した例を紹介します。
【毎月返済額8万円(年間返済額96万円)の場合の借入可能額】
返済期間 35年 2,078万円
返済期間 30年 1,897万円
【毎月返済額10万円(年間返済額120万円)の場合の借入可能額】
返済期間 35年 2,598万円
返済期間 30年 2,371万円
【毎月返済額12万円(年間返済額144万円)の場合の借入可能額】
返済期間 35年 3,118万円
返済期間 30年 2,846万円
【毎月返済額14万円(年間返済額168万円)の場合の借入可能額】
返済期間 35年 3,637万円
返済期間 30年 3,320万円
フラット35「毎月の返済額から借入可能金額を計算」より
※金利は全て3%としています
上記のように算出した「借入可能額」に「頭金」を加算した額が購入できる物件価格の目安となります。
毎月返済額を決定する場合の注意点
シミュレーションにおいて毎月返済額を考えるときは、「現在支払っている家賃」を目安にすると良いとの意見があります。
確かに住宅購入後は家賃がなくなり、新たに住宅ローン返済が始めるため、家賃が住宅ローンに取って代わると考えがちです。
方向性として間違いではありませんが、住宅購入後には次のような費用が新たに発生する点に注意します。
- マンションにおいては修繕積立金・管理費が発生するし、駐車場代がかかることもある
- 一戸建ては将来的にシロアリ駆除・外壁塗装・屋根塗装などのメンテナンス費用が発生
- マイホーム購入後は毎年固定資産税(都市計画税)の納税義務を負う
上記のような費用がかかることを考慮したうえで、毎月返済額を決定します。
借入可能額の妥当性を判断するための2つの指標
シミュレーションで借入可能額を算出したとしても、本当にその額が適切なのか疑問に感じたときは、「年収倍率」と「返済負担率」という2つの指標から妥当性を判断します。
年収倍率とは
「年収倍率」とは、物件価格が年収の何倍かを示す数字です。住宅金融支援機構の「2020年度 フラット35利用者調査」によると物件ごとの年収倍率は次のとおりです。
- 土地付き注文住宅 7.4倍
- マンション 7.0倍
- 建売住宅 6.8倍
- 注文住宅 6.7倍
- 中古マンション5.8倍
- 中古戸建 5.5倍
住宅金融支援機構の「2020年度 フラット35利用者調査」より
新築住宅の場合は6~7倍、中古住宅の場合は約6倍の人が多いようです。
一般的な目安として、前章で算出した借入可能額が同水準であるか確認してみるといいでしょう。
ただ、この年収倍率は住宅購入をした世帯全体の平均的な指標です。
例えば若く定年退職までまだ40年近くある人と、定年退職まで20年未満であるような人を同じように考えるわけにはいきません。
「年齢が高いのでやや低め」「退職金が十分にあるので、少しくらいなら高めでも問題ないはず」など、自身の状況に応じて可否を判断しましょう。
返済負担率とは
返済負担率とは、年収に占める住宅ローンの年間返済額の割合のことで、「年収負担率」「返済率」などとも言われます。
計算式は「返済負担率=年間返済額÷年収×100」です。
年間返済額は前章の「借入可能額」を算出したときの「毎月返済額」に12を乗じて算出できます。
仮に年収500万円の世帯で、毎月返済額が「10万円」と「12万円」のケースで計算してみます。
【毎月返済額が10万円の場合】
年間返済額は120万円(10万円×12月)
120万円÷500万円×100=24
返済負担率は24%
【毎月返済額が12万円の場合】
年間返済額は144万円(11万円×12月)
144万円÷500万円×100=28.8
返済負担率は28.8%
一般的には返済負担率は25%以下に収まっているのがよいとされています。
ただし、一般的な数値に収まっているかどうかで良し悪しを判断するのではなく、ご自身の家計への影響を考えるようにしたいです。
数値化によって年収の何パーセントが住宅ローンとして支出されるか実感できるため、家計の負担が可視化されます。
そのうえで負担が重いと感じるなら、妥当と感じるところまで毎月返済額を下げ、下げた額で再度借入可能額のシミュレーションをします。
なお、通常この年収負担率は税込の年収で算出します。しかし、より厳格に借入可能額を考えるなら、以下のように、条件を厳しくして返済負担率を計算してみることとおすすめします
1:可処分所得で計算
可処分所得とは、所得税・住民税等を差し引いた正味で受け取る年収のことです。
実際に自由になる金額のうち、何パーセントが住宅ローン返済額となるか分かります。
2:ボーナスを差し引いて計算
ボーナスは企業業績が悪いときや、不景気に陥った場合いなどに減額される懸念があります。
ボーナスを最初から考慮しないで住宅ローンの借入妥当額をすることで、より安全な額を購入できることになります。
自己資金と頭金はイコールではない
最初の章で「住宅ローン借入額 + 頭金 = 物件価格」であると述べました。
しかし、住宅購入のために確保しておいた自己資金がそのまま住宅の頭金に使えるとは限りません。
というのも、住宅購入時には物件価格以外にも、お金がかかるからです。
住宅購入契約にかかる費用
印紙税 売買契約にかける売買契約書、注文住宅を建てるときの建設工事請負契約書などに貼付けるもの
住宅ローン契約にかかる費用
事務手数料・保証料のほか、住宅ローン契約書(金銭消費貸借契約書)にかかる印紙税
税金
不動産を新たに取得するときにかかる不動産取得税
その他の費用
引っ越し費用や家具購入費
住宅購入にかかる諸経費は、諸費用新築物件の場合は物件価格の「3~6%」、中古物件の場合は「6~8%」程度が目安です。
頭金として準備していた費用が諸経費に回ることも考えらます。
借入額は金融機関が決定する
ここまで、借入可能額と頭金から購入できる物件価格を算出できることを紹介しました。
ただし、借入可能額は最終的には金融機関の審査によって決定されます。審査の結果、想定よりも借入額が大きいこともあれば、小さいこともあるでしょう。
借入額が想定より大きい場合、借りすぎてしまう懸念があります。
借りられる額と返済できる額がイコールであるとは限りません。
返済できる額を見極めて借り入れを行います。
逆に想定よりも借入額が小さい場合は、小さくなった借入額の範囲で購入できるよう、頭金の増額が可能か検討します。
返済できる見込みがあるのであれば、他の金融機関で審査を再チャレンジしてみてもいいでしょう。
まとめ 借入可能額を起点として住宅購入プランを立てよう
住宅探しや住宅購入において、借入可能額は非常に重要です。
最終的には金融機関の審査によって決まるものですが、シミュレーションや指標を活用することで、見通しを立てるこことは可能です。
早い段階で見通しを立て、スムーズに住宅探しや住宅購入を行っていきましょう。