(構成・文=横山 晴美/ファイナンシャルプランナー)
住宅ローンには審査があり、申込者の収入は審査に大きな影響を与えます。
必要な額を申込者1人で借りるのが難しい場合には配偶者の収入も合算する「収入合算」を利用する方法があります。
しかし収入合算者が正社員ではない、いわゆるパートやアルバイトとして働いてる場合、収入合算を利用することはできるのでしょうか。
パートやアルバイトでも収入合算が不可能というわけではありませんが、申込時のハードルは高くなりますし、利用に際して注意すべき点もあります。
収入合算について詳しく紹介します。
収入合算の概要
最初に収入合算とは何であるかを確認します。
住宅ローンにおける収入合算とは、住宅ローンの申込者本人の年収に、本人に近しい者の年収を加えて、住宅ローンを借り入れることです。
収入合算を行う者は「収入合算者」と呼ばれ、多くは申込者本人の配偶者です。場合によっては両親や子供などが該当することもありますが、ここでは収入合算者は配偶者であるとします。
なおパートやアルバイト等の正社員ではない働き方を、ここでは便宜上「パート」と呼ぶこととします。
収入合算の効果
収入合算のメリットは借入可能額の増加です。世帯収入を底上げできれば、返済能力の評価が高まるため、審査に通りやすくなるメリットが期待できるのです。
また、収入合算を行ったところで、住宅ローン手続きに大きな変化は生じません。
例えばペアローンの場合は住宅ローン契約が2本になるため、夫婦それぞれで審査が行われますし、審査申し込みや契約時の事務手続きも2本分です。
しかし収入合算であれば、住宅ローンそのものは1本ですみます。
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パートでも収入合算は可能か
結論から言うと、パートでも収入合算は可能です。ただし、金融機関によってはパートでは受け付けられないこともあります。
ですのでより厳密には「金融機関が認めれば可能である」が正しいです。
収入合算の一般的な要件
収入合算についての規定は金融機関ごとに異なりますが、一般的には次のような要件があります。
勤続年数
一定期間以上継続した収入であることが求められます。仮に収入があっても一時的な収入の場合は収入合算が認めらにくいでしょう。
そのため短期間のパートやアルバイトを繰り返している人は注意が必要です。
収入額
正社員やパートといった属性ではなく、収入額による制限が設けられているケースがあります。
収入合算者の収入要件を「200万円以上(前年の税込収入)」としている金融機関もあるため、年収要件も合わせて確認しておきます。
また収入合算が認められる場合も、合算額の調整が入ることが多いです。
実は収入の全額を合算できることは少なく、多くの場合は「収入合算者の収入の50%を限度」「住宅ローン申込者本人の収入の50%まで」などの制限があるのです。
パートでの収入合算は事前の要件確認が重要
収入合算を前提に住宅ローンを組みたい場合は、事前に条件を確認して自身の要件に合致する金融機関を選ぶといいでしょう。
例えばイオン銀行では『正式申込日時点において、勤続6カ月以上であれば原則として収入合算が可能』としています。
また、多くの金融機関で取り扱っているフラット35は、パートでも収入合算の申し込みが可能な住宅ローンです。
ただし、申込要件を満たしていても、審査によって合算が認められないこともあります。
さらに、住宅ローンの審査は、契約者本人の勤務先や勤続年数・年収・家族構成・他での借入状況等、さまざまな要素を考慮して行われます。
そのため収入合算によって世帯収入を上げたからといって借入額や審査の不安が全て解決するとは限りません。
審査に不安がある場合は、それ以外の要件も確認して審査に臨みましょう。
パートの配偶者が収入合算で返済する場合の注意点
全てのパートに当てはまるわけではありませんが、一般的にはパートという雇用形態には次のような傾向があります。
- 雇用が不安定
- キャリアアップの機会が少ない
- (勤務先における)健康診断等のケアが手薄
上記の傾向を踏まえてパートの配偶者が収入合算を行う場合の注意点を紹介します。
借入額に注意
有期契約が多いパートの場合、勤務先の業績によっては契約更新がなされないことが考えられます。
パート収入が継続することを前提として住宅ローンを借りてしまうと、もしもパート収入が途絶えたときに返済が苦しくなる可能性が高いです。
またキャリアアップによって収入が上がる機会も少ない傾向にあるため、子供進学等によって支出が増えてしまったときに、対応しきれなくなる懸念もあります。
団信未加入
多くの金融機関では収入合算者は団体信用生命保険(以下:団信)に加入できません。
一方で、職場の健康診断について、パート従業員へ診断の機会を与えることは必須ではありません。
パートの場合に健康診断が受けられるかどうかの基準は「1週間の所定労働時間が正社員の4分の3を超えるかどうか」となっており、厳しい基準といえるでしょう。
東京労働局では「1週間の所定労働時間数がおおむね正社員の2分の1以上である者に対しても一般健康診断を実施するのが望ましい」としていますが、義務ではありませんし、基準を満たさない人も少なくないと推測します。
パートとして働いている人の中には、配偶者の勤め先の健康診断が利用できる人もいるでしょうが、すべての企業が従業員の家族にまで健康診断を実施しているわけではありません。
健康診断を受ける機会が少ない場合は健康リスクが高くなるといえるため、「団信に加入できない」というデメリットが相対的に大きくなります。
「自費でも積極的に健康診断を受ける」「病気に備えて手厚い医療保険に加入する」などの自衛策を検討します。
なお、フラット35の収入合算者は「連帯債務者」となり、この連帯債務者は団信に加入可能です。連帯債務者については次章で紹介します。
収入合算利用時の持ち分割合は?
収入合算を利用した場合は、不動産の持ち分に注意が必要です。原則として、収入合算者は債務者ではありません。
ここでいう債務者とは、「住宅ローン契約者」が該当すると考えるといいでしょう。収入合算者は住宅ローン契約者ではないので、審査上自身の収入を合算しているとしても、その分の所有権を有するわけではありません。
本来所有権を持ちえないのに持分を持ってしまうと、その分は贈与されたものみなされ、持ち分に応じた贈与税が発生してしまう恐れがあります。
なお、債務者と同様の責任を負うフラット35の「連帯債務者」では不動産の持ち分を持つことが可能です。
フラット35の場合とそれ以外の民間住宅ローンにおいて取り扱いの原則が異なるため、申し込む住宅ローンにおいて収入合算者の立場がどのようなものになるのか、よく確認しておきます。
なお、通常の民間住宅ローンでは、収入合算者の地位は「連帯保証人」です。連帯債務型と連帯保証型は違った種類であることを理解しておきましょう。
連帯債務者となるフラット35とは?
既述のとおり、フラット35で収入合算を行った場合は連帯債務者となります。
連帯債務者は「債務者と同様の責任を負う」存在であり、収入合算者でも団信に加入できますし、負担割合に応じて住宅ローン控除の適用も可能です。
フラット35の販売窓口は民間金融機関ですが、提供元は住宅金融支援機構です。そのためフラット35を検討している場合は、窓口である金融機関に条件を確認するだけでなく、フラット35の基本要件を確認しておくといいでしょう。
なお、フラット35のほとんどは買取型といわれるタイプですが一部には「保証型」があります。
保証型の場合は金融機関独自の商品性を持つことが多いため、保証型の場合は金融機関に商品性の特徴をよく確認したうえで申し込みます。
ペアローンや連帯債務者との違いは
収入合算と似た住宅ローンの組み方として「ペアローン」がありますので、特徴を紹介します。
ペアローンは夫婦それぞれが契約者となり、それぞれが借入れ・返済を行う借入方法です。
自身の借入額に対して住宅ローン控除が適用されるほか、団信にも加入します。通常の団信はそれぞれの借入額が限度ですが、配偶者の住宅ローンに対しても団信が適用される特約もあります。
さらに通常は、互いに連帯保証人となります。
住宅ローン契約者になるためには正社員であることが求められることが多く、配偶者がパートの場合はやや難易度が高い住宅ローンの組み方といえます。
まとめ パート収入の合算では金融機関選びが重要
パートの配偶者が収入合算を考えている場合は、パートでも収入合算を申し込める金融機関に住宅ローンを申し込まなければなりません。
特に収入合算の有無で住宅購入できるかどうかが決まるようなケースでは、しっかりと要件を確認します。
また収入合算する場合は、パート収入がなくなってしまう場合も想定して返済プランを考えていくといいでしょう。
収入合算を上手く利用し、住宅購入を成功に導きましょう。