(構成・文=横山 晴美/ファイナンシャルプランナー)
子どもが生まれたことがきっかけで、マイホームを購入する夫婦は少なくありません。
とはいえ、子どもが小さいということは、これから教育費の確保も必要になってきます。
住宅ローンを返済しながら、教育費にも備えるにはどうしたらいいのでしょう。
住宅ローンと教育費の支出を両立させるコツをご紹介します。
コツ1 教育費と並行して教育費を確保するなら、固定金利がおすすめ
住宅ローンと教育費の両立が不安な場合、住宅ローンは返済額が最後まで変わらない「全期間固定金利」を選択しておくほうが安心です。
教育費は兄弟の数や子どもの進学先によって変動する可能性がありますが、住宅ローン返済を固定金利にすれば、住宅ローンに関しては支出を見通しやすくなります。
特にお子さんが小さく将来の進学先が見通せない世帯や、今後家族が増える可能性のある世帯では固定金利で検討してみましょう。
ただし、変動金利が必ずしもいけないのかというと、そうではありません。
金利が上昇したら繰り上げ返済で返済額の負担を抑えることができる世帯や、そもそも家計に余裕があるので多少金利が上昇してもいい、といった世帯なら変動金利でも問題ありません。
また、借入期間を15年や20年と短めにする世帯もあるでしょう。
返済期間が短い場合は、その分金利上昇リスクが小さくなりますので、変動金利を選択する余地が大きいです。
コツ2 子どもの「教育費」を知ろう
教育費の金額はどの程度になるのでしょう。
文部科学省の「平成30年度子供の学費調査」によると、保護者が支出した費用の平均は次の通りです。
なお、ここご紹介した金額は、ランドセル代や学習机、習い事などの費用も含めたものになっています。
子どもの教育関連で保護者が支出したすべての費用と考えていいです。
進学先ごとの1年ごとの教育費
幼稚園
- 公立 22万3,647円
- 私立 52万7,916円
小学校
- 公立 32万1,281円
- 私立 159万8,691円
中学校
- 公立 48万8,397円
- 私立 140万6,433円
高校(全日制)
- 公立 45万7,380円
- 私立 96万9,911円
(出典 文部科学省「平成30年度子供の学費調査」)
続いて、私立大学の費用です。大学については「授業料」「入学金」「設備費」と、大学にかかる費用のみとなります。
私立大学(初年度)
- 授業料 90万93円
- 入学金 25万2,030円
- 設備費 18万1,294円
仮に子供を幼稚園に通わせる場合、私立幼稚園に入ると年間50万円の支出が発生することになります。
「子どもが生まれた!住宅ローンを組んで家を買おう」といった夫婦は、数年後にこういった支出が発生するかもしれないことを知っておくといいですね。
幼児教育については「教育無償化」が話題になっているため、小学校に上がるまで教育費はかからないと考えている人も多いかもしれません。
しかし、幼児教育無償化の対象は以下のようになります。
年齢対象
- 3歳~5歳
- 0歳~2歳については、住民税非課税世帯のみが対象
無償化対象
- 保育料のみ
- 給食費・行事費・教材費などは対象外
無償化施設(3歳~5歳)
- 認可保育園・認定こども園等 完全無償化
- 幼稚園 無償化の上限 月額2.57万円
- 幼稚園預かり保育の上限 月額1.13万円
- 認可外保育園 無償化の上限 月額3.7万円
このように、2019年10月より始まった幼児教育無償の対象はごく狭い範囲となります。
子どもが小さくともそれなりの負担が生じることはしっかり確認しておきましょう。
なお、前述ご紹介した「教育費」は平成30年の調査であり、無償化前の金額となります。そのため、「私立幼稚園の負担が年間50万円とあるけれど、実際の負担はもっとずっと少ないだろう」と安心している人もいるかもしれません。
しかし、2020年1月現在、私立幼稚園の無償化は、いったん保育料を支払ったのちに還付を受ける方式がほとんどです。
のちに還付金が受け取れるとはいえ、いったんは教育費を支出することになりますので、やはり教育費を支出するだけの資金が必要になります。
コツ3 教育費のピークにおける、家計の負担を考えよう
住宅ローンと教育費の合計が、家計をどのくらい圧迫するのか、事前に試算しておくといいでしょう。
進学先や年齢に応じて細かく試算を出すのがベストですが、教育費は一定ではないので試算は簡単ではありません。
そこで教育費のピーク時に、住宅ローンと教育費を合算した負担率を考えていくことをおすすめします。
家計の負担1 住宅ローンの負担
住宅購入を考えている人の中には、「返済負担率」というキーワードを耳にしたことがある人も多いと思います。
返済負担率とは年収に占める返済金の割合をいいます
返済負担率 年間返済額÷年収×100
例えば、年間返済額が同じ150万円だったとしても、年収が500万円であれば
150万円÷500万円×100=30%
一方、年収が800万円であれば
150万円÷800万円×100=18.75%
となります。
※返済負担率の返済金は住宅ローン以外のものもあれば含めて計算します
※ここでは住宅ローンだけと考えていきます
試算でご紹介した年間返済額150万円だと、借入額はどの程度なのでしょう。
返済返済額150万円で、返済期間35年・金利1.3%とすると、4,216万円の借り入れとなります。
今回はこの数値で家計への負担を考えていきます。
なお、借入額が3,500万円であれば、年間返済額は124.8万円。
借入額が3,000万円であれば年間返済額は106.8万円となります。
自身の想定する借入金に応じて試算してみてください。
家計の負担2 教育費の負担
既述の教育費の統計額から負担率を考えていきます。
教育費の推移は世帯によって異なりですが、一般的には中学校・高校と子どもの成長に合わせて教育費の負担が大きくなり、大学入学時がピークとなります。
私立大学の入学時の教育費は平均で約133万円にも上ります。
そこでここでは高校・大学入学時の負担で考えていきます。
ポイント
- 私立高校 約97万円
- 私立大学(初年度) 約133万円
※「コツ2」でご紹介した金額と同様です
年収500万円の世帯
- 高校在学中 97万円÷500万円×100=19.4%
- 大学初年度 133万円÷500万円×100=26.6%
年収800万円の世帯
- 高校在学中 97万円÷800万円×100=12.1%
- 大学初年度 133万円÷800万円×100=16.6%
上記の負担率をもとに、各世帯年収の負担率を確認します。
年収500万円世帯
高校在学中 |
大学初年度 |
|
住宅ローン負担率 |
30% |
30% |
教育費負担率 |
19.4% |
26.6% |
合計 |
49.4% |
56.6% |
年収800万円世帯
高校在学中 |
大学初年度 |
|
住宅ローン負担率 |
18.75% |
18.75% |
教育費負担率 |
12.1% |
16.6% |
合計 |
30.85% |
35.35% |
大学初年度は教育費のピークとなり、年収500万円世帯はもちろん、年収800万円世帯についても負担率がかなり高くなることがわかります。
教育費と住宅ローンを合計して50%を超えるようになると、収入の半分で食費や通信費等、すべての支出を賄うことになります。
そのような場合、その年の年収から住宅ローンと教育費を支出するのは難しいでしょう。家計の負担を軽くするために、前々から教育費を準備しておくことが望ましいです。
住宅ローンと教育費、優先順位が高いのはどちら?
よくある疑問として、資産の使い道があります。
預貯金がある程度の金額になった場合に、そのお金は教育費に回したほうがいいのか、それとも住宅ローンにまわしたらいいのか、といった疑問です。
すでに申し上げたように、大学入学時は負担が大きいので資金を準備しておくべきです。
目安として、初年度は100万~150万円円程度の資金があると安心です。もしも大学4年間の学費すべてを準備しておきたいと考えるなら500万円近く準備しなければなりません。
「その時にならないとわからないので、大学資金は100万円あればいい」「子どもが2人いるので、合わせて300万円は確保しておきたい」様々な意見があるはずですので、自身の考えにおいて教育費の貯蓄目標額を設定することをおすすめします。
目標までの額は教育費として確保し、それを超過した分は繰上返済に充てると考えていきましょう。
まとめ 教育費のピークを知って、住宅ローンとの両立を目指そう
返済期間が長い住宅ローンと、見通しの立てにくい教育費を並行して支払っていくのは不安が大きいかもしれません。
しかし教育費にはピークがあり、ピークを過ぎれば教育費の負担はないのが通常です。
ピークに備えて準備していけば、教育費を負担しながら住宅ローンを返済していけるでしょう。