(構成・文=横山 晴美/ファイナンシャルプランナー)
「家を買うために協力して貯金を作った」そんな夫婦は多いでしょう。
しかし、いざマイホーム購入の段階になると、貯めた預貯金をマイホームの頭金に回すことに不安を感じる人も多いものです。
いままであった預貯金が減るのですから、心配になるのもうなずけます。
購入時に、預貯金はどの程度残しておくべきなのでしょう。また、購入後にどのように預貯金をしていくといいのかもご紹介します。
貯金はいくら残すべき?
頭金は物件価格の1~2割程度といわれています。
しかし、手元資金もある程度は残しておかなければなりません。
「物件価格の2割」にこだわって必要な預金まで頭金に回してしまうと家計が立ちゆかなくなってしまうかもしれません。
手元資金はどの程度必要なのでしょう。
「近い将来の大きな出費」と、「万が一の場合に備えた生活資金」を合計した額が必要な手元資金になります。
近い将来の大きな出費
「数年以内に車を買い替えたい」「来年子供が幼稚園に入るので入園金が必要」など、数年以内に支出する支出です。
ボーナスに依存している支出項目も、金額が大きいものはここに加えておくといいかもしれません。
また、不定期に支払う出費にも注意します。年払い保険料や数年に一度の車検代など、預貯金を切りくずして支払っているものがあればその分は現金で持っておくべきです。
現金が不足しないように支出を洗い出しておきましょう。
万が一の場合に備えた生活資金
会社の業績悪化で収入が減ったり、病気やケガで休業したりするリスクは誰でもあります。
そういったときのために、半年程度の生活費は現金で持っておくべきです。
何らかの理由で世帯主の収入が途切れても、半年分の生活費を準備しておけば、半年以内に生活を建て直すことで住宅ローンの返済や生活を維持することができます。
半年分の生活資金が難しい場合でも3か月分は欲しいところです。
共働き夫婦の場合も、2馬力であることがすでにリスクヘッジになっているので、3か月分でもいいかもしれません。
世帯主の収入が途切れた場合のリスクが大きければ6か月分、小さければ3か月分と、家計に合わせて考えましょう。
公的なセーフティーネットは
3か月~半年分でいいのか不安な人もいるでしょう。そこで給与収入が途切れた、もしくは減ったときに頼れる社会保障制度を2つご紹介します。
- 傷病手当金
会社員の場合、業務外の自由による病気・ケガである休業ならば、月収の約3分の2が受給できる「傷病手当金(最長1年6か月)」があります。
- 失業保険
雇用保険加入者は失業保険の存在もあります。
雇用保険に加入していた者が自己都合退社や解雇などで仕事を辞めたときに、一定の給付を受けることができるのが「基本手当」です。
退職理由や雇用保険加入期間、年齢等によって受給日数は違います。
詳細はハローワークインターネットサービスのサイトで確認できます。
貯金から必要な手元資金を差し引いた額が頭金に回すことができる額
「近い将来の大きな出費」と、「万が一の場合に備えた生活資金」の合計が現金で確保しておきたい額です。
預貯金からその額を差し引いた残りをマイホームの頭金にすることができます。
頭金の額が物件価格の1~2割になれば一番ですが、1~2割に満たない場合も、諸経費分あればよしと考えます。
預貯金があっても、物件価格目一杯まで借りたいと考える人もいるでしょう。
近年は金利が低いことと、住宅ローン控除があることから、大きく借りて、ゆっくり返済していくのも選択肢の一つです。
預貯金があったほうが安心できるタイプの人に向いた方法です。
ただし頭金を抑えて借入額を大きくする場合、毎月の返済額が「返済できる範囲」でなくてはなりません。
また当然、借入額の小さいほうが総返済額は減ります。
毎月返済額が増えても預貯金が多いほうがいいのか、最低限の預貯金があれば十分なのか、正確にもよるのでメリット・デメリットを踏まえて決定していきましょう。
マイホーム購入時の諸経費、目安は物件価格の5%
理想である「頭金は物件価格の1~2割」に固執せず、返済プランに応じて頭金を調節するのがおすすめです。
ただし、マイホーム購入時に発生するのは物件代金だけではありません。
住宅ローン契約時にかかる諸経費や火災・地震保険料などがあります。
これらの諸経費は新築で購入価額の3~5%、中古では5~8%とされています。
諸経費を住宅ローンに上乗せできる場合もありますが、現金で支払ったほうが家計は健全です。
頭金を出すより預貯金を持っておきたい人も、諸経費分の現金は確保しておきましょう。
住宅ローン返済しながらの貯金はいくら?
通常、頭金の支出によって預貯金は減っていきます。
仮に預貯金が「近い将来の大きな出費」と、「万が一の場合に備えた生活資金」だけになったとしたら、その後はどういったペースで貯めていけばいいのでしょう。
ポイントは将来必要な額を見極め、逆算していくことです。
ケース1 大学資金を用意したい世帯
大学資金は必要になる時期が決まっています。
例えば初年度の金額を貯めるなら、必要額を子供が18歳になるまでの年数で割っていけば、適切な積立金額が見えてきます。
大学資金はどこの大学を選ぶかはもちろん、学部や通学方法などによっても変わってきます。
文部科学省の調査によると私立大学の初年度で約132万円(うち入学金約25万円)です。
【大学初年度学費(132万円)を貯めるための毎月積立額】
- 子供が0歳 132万円÷18年÷12か月=約6,100円
- 子供が1歳 132万円÷17年÷12か月=約6,500円
「うちは学資保険があるから不足分を少し積み立てれば足りる」といった世帯や、逆に「大学に在学中に定年を迎えるので、高校在学中に4年分の学費を用意しておきたい」などより多くの学費を準備しておきたい世帯もあるでしょう。
「目標額」と「期限」を明確にして、必要な額を貯めていきましょう。
0歳時から積立てを始めるのであれば、毎月積立額は少額に感じるかもしれません。
しかし積立てと同時に小学校から高校までの教育費を支出していくことを忘れてないでください。
文部科学省の「平成28年度子供の学習費調査」によると、中学の1年あたりの費用は公立で約47.9万円、私立で約132.7万円となっています。
公立中学では月あたり約3.9万円、私立では月あたり約11万円も必要になります。
これらの支出と2本立てで大学資金を貯めていくのは、たとえ毎月数千円でも大変なことのはずです。
出典文部科学省|私立大学等の平成28年度入学者に係る学生納付金等調査結果について
ケース2 老後資金が必要な世帯
老後資金として必要な額はなかなか算出しにくいです。
退職の時期や普段の生活費によって金額は違いますが、最初は少しずつでいいので貯めていく習慣をつけていきましょう。
毎月数千円でも数万円でも構いませんが、継続して貯めてくようにしたいです。
老後資金は「貯める」だけでなく、運用して増やす視点も大切です。
非課税枠のある「つみたてNISA」や所得控除のある「iDeCo(個人型確定拠出年金)」などを活用すれば、運用益で積立額以上の老後資金が期待できます。
そのため金額よりも、毎月資金をねん出する「継続性」を大切にしていきましょう。
ただし、定年まで10年を切っているような世帯は、あまり悠長に構えている余裕はありません。
定年までにいくら貯めるかを決め、逆算して必要額を積み立てていきたいです。
上のケースを参考にして、住宅ローンを返済しながら貯金をどの程度用意すべきなのか計算してみましょう。
この考え方は、将来の必要額に合わせて毎月積み立てていくべき預貯金の額もわかるため、住宅ローンの返済額をどの程度に抑えるべきか考えるときにも役立ちます。
まとめ
住宅ローンの頭金を考えるときはこれからいくら必要なのかを「近い将来の大きな出費」と、「万が一の場合に備えた生活資金」の、2つの視点で意識しておくことが大切です。
また、返済額をいくらに抑えればいいのかは、毎月の支出に加え、今後のために積み立てるべき預貯金も上乗せして計算しましょう。